2025.5.14
コラム
当協会は、日本のエンジェル投資環境を整え、スタートアップの成長を後押しする活動をしています。活動報告、最新ニュース、ピッチイベントのレポートなど、エンジェル投資に関わる様々な情報を定期的に発信しています。
2022年11月にスタートアップを生み出すエコシステムを創出することを目標として「スタートアップ育成5カ年計画」が始まりました。しかし、スタートアップ・ブームの「ムーブメント」は起きているものの、あまり市場はグロース(成長・発展)していないのが実情です。
本記事では、当協会理事の山本敏行が思い描いている「東証グロース市場」の未来を語ります。
日本政府は「スタートアップ創出5ヶ年計画」を推進しており、2022年からの5年間でスタートアップ10万社創出、投資規模の10兆円拡大、ユニコーン企業100社創出を掲げています。しかし実際には投資規模は年々減っており、ユニコーン企業の創出は年間1社程度にとどまり、目標達成には程遠い状況です。
資金調達額は2022年にピークアウト
新規設立VC数は激減している
東京証券取引所のグロース市場は、本来企業の成長支援が目的ですが、上場後に持続的な成長をする企業は少なく、多くが初値を下回っています。そのため、起業家は上場後の資金調達が難しく、投資家も期待通りのリターンが得られず、投資意欲が低下する悪循環に陥っています。
さらに機関投資家や海外投資家が参入しにくく、個人の短期投資中心となっています。このままでは、ユニコーン企業の誕生や市場の活性化が難しく、日本経済全体の成長にも悪影響が出ると懸念されます。
東証グロース市場の過去5年間の株価
東証グロース市場において、時価総額100億円の基準厳格化が検討されていますが、単なる基準の引き上げだけでは問題の根本的解決にはつながりません。
政府はこれまで上場前のスタートアップ支援を充実させてきましたが、上場後の市場環境、特に個人投資家による短期売買が中心となっているグロース市場についても改善策を講じる必要があります。
市場規模の段階的拡大を目指すため、以下の3つの施策を提言します。
1.機関投資家・海外投資家を東証グロース市場へ呼び込む施策
政府方針として東証グロース市場の活性化を掲げ、政府系ファンドを創設することで市場の持続的成長を支援します。具体的な資金源として、日本政策投資銀行やGPIFによる「東証グロース250指数」への投資を推進し、市場の安定化および株価の底上げを図ります。
例えば、GPIFの運用総額約260兆円のうち1%をグロース市場に投資することで、グロース市場全体の時価総額(約8兆円)が約2〜3割上昇する試算となります。
これにより各社の時価総額が向上し、株式流動性が確保されるため、機関投資家や海外投資家の参入が促進され、市場全体が活性化します。
2.個人投資家の短期売買から長期保有へ促す施策
新NISA制度により貯蓄から投資への流れが加速していますが、2024年度の買付総額17.45兆円のうち海外資産への投資は10.4兆円です。国内の成長企業への投資を促すため、「グロース特別枠」を設け、現行240万円の成長投資枠を480万円に拡充します。
また、この枠で売却した資金の年内再投資を認めるほか、東証グロース250指数をつみたて投資枠やiDeCoや企業型DCの対象商品とし、長期的資金の安定流入を図ります。
これにより海外流出資金の2割がグロース市場に投資されると、市場全体の時価総額は約2割向上します。
3.東証グロース市場の上場後の成長戦略を後押しする施策
東証グロース市場では上場前の2年間は新規事業が行えないため、上場後の成長戦略が十分に準備できず、市場からの資金調達も難しい状況となっています。これが株価低迷の要因の一つです。
この問題への解決策として、後継者不在の中小企業のM&Aを促進するための補助金制度を新設します。
これにより、特に上場後間もない企業が迅速に新規事業や成長戦略を展開できるだけでなく、日本の中小企業の後継者不足という課題解決にも寄与できます。
上記の施策により東証グロース市場が活性化すれば、起業家はより円滑に資金調達でき、投資家には安定したリターンが期待できます。
その結果、多くのユニコーン企業が誕生し、日本経済全体に持続可能な成長の好循環が生まれます。
この好循環の具体例は以下の通りです。
1.「起業家が好条件で資金調達し、大胆なチャレンジが可能になる」
2.「投資家が大きなリターンを得て、さらに大規模なファンドを組成して投資できる」
3.「大型投資によりユニコーン企業が生まれ、次世代のGAFAM候補へと成長する」
4.「企業が高い時価総額で上場し、十分な資金が調達できる」
5.「機関投資家や海外投資家など新たな資金が市場に流入する」
6.「NISAを活用した個人投資家が安定したリターンを得られる」
7.「プライム市場へ昇格する企業が増加する」
8.「日本経済全体が活性化し、さらなる成長へつながる」
以上が、山本が考える「東証グロースをグロースさせる」ための提言です。
一般社団法人日本エンジェル投資家協会では、エンジェル投資家向けの「エンジェル会員」、スタートアップを支援している自治体や企業・団体向けの「パートナー会員」を募集しています。
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